「被爆太郎伝説」
「被爆太郎伝説」伊藤明彦 いとうあきひこ(窓社)1999年発行
《被爆太郎》とは何者なのか?を描いた、シナリオ文学。ところどころに挿まれた、写真の頁が効果的だ。原爆で半分になった神社の鳥居、原爆資料館で展示に見入る若者の眼差し、カラーで映し出す現代社会の断片、そして被爆者一人一人の名前が書かれた録音テープがまるで位牌のように並ぶキャビネット……。
主人公「津川」は、被爆者およそ2000人を訪ね、“被爆者体験”を収録しつづける。約半数の方からは、人でなしと罵倒され、政治団体かと疑われ、嫌なことを思い出させるなと、冷たく拒絶される。
そんななかで出会った被爆者「木村信二」は、美しく献身的な姉との被爆体験とその後の闘病体験を、とつとつとリアルに語り、津川を感動させた。だが、ひょんなことから、彼がニセ被爆者であり、美しい姉もいなかったことを、知ってしまう。
木村信二とは何者なのか?どうしても確かめたくなった津川は、木村の「自殺」後、彼の兄を探し出し訪ねるのだが……。
やがて津川は、原爆搭載機の出撃の際に祝福を与えたとウソを語る神父が、来日し平和行進に参加していることを知る。《被爆太郎》に、《加爆ジャン》。彼らはいったい、何者なのか?
彼の兄から話を聞いた津川は、その答えを知る。《被爆太郎》と《加爆ジャン》の意味を、知る。そして最後に津川は、自分が被爆者から罵られながら、なぜ1000人もの被爆者の声を集めつづけたのか、その自分の行動の意味についても考え、明かしはじめる。《被爆太郎》に導かれるようにして……。
《死者を死せりと言うなかれ。
生者のあらんかぎり、死者は生きん。》
《被爆者の声》
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